お知らせ
2026年10月2日
預けたお金が、木と緑のある街を育てる
東京・神田で約100年、建物と街を見つめてきた建設会社の久保工は、企画や設計から工事、完成後の管理や清掃まで、建物の長い一生に関わっています。
神田の街で宮大工から始まり、2027年に創業100周年を迎える同社は、新本社ビル「Perches KANDA(パーチス カンダ)」で環境にやさしい建物づくりを形にしました。
建設を支えたのは、環境に役立つ事業に使い道を限ってお金を貸す仕組みである「グリーンローン」です。久保工の代表取締役社長の高橋弘氏に、建設の仕事を通じて未来の街をつくることと、会社を次の100年に受け継ぐ思いを聞きました。ふだんのお金の預け方が、社会とどうつながるのかをたどります。


株式会社 久保工 代表取締役社長 高橋 弘 氏
――まず、久保工がどのような会社なのか教えてください。
高橋:
当社は、建物をつくり、できた後も長く守る会社です。新しい建物を建てるだけでなく、古くなった建物の直し方を考えたり、土地や建物をどう使うとよいかを考えたり、清掃や設備の管理をしたりしています。
これまで東京・神田を中心に、約500棟の建物を新しくつくり、そのうち約半分とは、今でも管理や清掃などでお付き合いが続いています。建物を通じて、人や会社と長くつながる仕事を続けています。
――企画や設計から、完成後の管理まで関わる強みは何ですか。
高橋:
建物には長い一生があります。つくる時にはよくても、使いにくかったり、直すのに大きなお金がかかったりしては困ります。当社は、企画や設計から工事、完成後に使いやすく保つところまで、一つの会社で関わります。
建物を建てた後も、管理や清掃を通じて長く支えられることが強みです。電気の使い方、設備の傷み方、利用する人の声も分かります。建てて終わりではなく、お客さまや街と長く付き合えることが強みです。
――創業100年を迎える会社として、受け継いできたものはありますか。
高橋:
1927年に創業した当初は宮大工(みやだいく)の仕事をしていました。宮大工は、神社やお寺など、木の建物を高い技術でつくる職人です。戦後は、街の安全に関するルールの変化に合わせ、木造から鉄筋コンクリートなどの建物へ技術を広げました。
時代に合わせて技術を変えながら、神田で仕事を続けてきました。ただ、材料をよく見て、細かなところまで手を抜かず、長く使えるものをつくる姿勢は変わっていません。時代に合わせて技術は変えても、仕事への向き合い方は受け継いでいます。
――久保工にとって、神田はどのような街ですか。
高橋:
会社が生まれ、育ててもらった街です。神田には古くからの店や会社、大学、神社、祭りがあります。一方で、新しいオフィスや住まいも増えています。歴史や文化を大切にしながら、街の建て替えや再開発に関わっていきたいと考えています。
――神田で長く事業を続けられた理由は何でしょうか。
高橋:
建物を引き渡した後も、管理や清掃、修理で関わり続けてきたことが大きいと思います。建物の持ち主の世代が代わった時や、建て替えを考える時にも相談を受けます。すぐに答えを出すのではなく、その方の事情を聞き、長い目で考えます。
地域の祭りや町会活動に参加するのも、仕事だけでは分からない街の声を知るためです。約500棟のうち、約半分とは今も管理や清掃で関係が続いています。建てて終わりにせず、お客さまや地域と長く関わってきたことが大きいと思います。
街の記憶を次へつなぐ新本社
――地域との関わりでは、何を大切にしてきましたか。
高橋:
神田には多くの寺社仏閣が残り、住民が参加する祭りも多くあります。その中でも日本三大祭りの一つである神田神社(かんだじんじゃ)の神田祭や町会の活動を支え、NPO法人神田学会の活動にも関わってきました。街のことを学び、立場の違う人が話し合う場を続けることが大切です。
新本社の1階の駐車場は、次の神田祭で御神酒所(おみきしょ)として使う予定です。御神酒所は、祭りの時にみこしを迎えたり、地域の人が集まったりする場所です。会社の建物も、街に開かれた場所にしたいと考えています。
――建物づくりは、街の表情をつくる仕事でもありますね。
高橋:
その通りです。神田では、約40年前に建った中小のビルが建て替えの時期を迎えています。土地が小さいと、古い建物の地下にある杭(くい)を取り出す機械が入らないこともあります。そこで、となり合う土地をまとめて建て替える再開発(さいかいはつ)が必要になります。
持ち主の事情に寄り添いながら、街全体にとって良い形を考えることも当社の仕事です。建物一つの判断が、道の見え方や人の流れ、街の使われ方まで変えるからです。
――新本社ビル「Perches KANDA」を建てた理由を教えてください。
高橋:
この場所は、当社が長く本社を置いてきた大切な土地です。並んでいた三つの建物を一つにまとめ、2024年3月に工事を始め、2025年12月に完成しました。地上9階・地下1階建てで、本社としての仕事をする場所に加え、2階から6階にはビルに入る会社(テナント)が使うオフィスも設けています。
2027年の創業100周年を前に、次の100年へ進むための記念事業の第一歩です。自分たちの考え方や技術を、建物そのもので見せる場にしました。
――「Perches(パーチス)」という名前には、どのような思いを込めましたか。
高橋:
社員から本社ビルの名称を募り、投票で決めました。「perch」は英語で、鳥が羽を休める「止まり木」という意味です。「鳥が枝に止まって、少し休み、また飛び立つ場所」という意味を込めました。
お客さまやビルに入る会社(テナント)、取引先、地域の方が、少し羽を休められる場所や存在でありたい。そんな思いを込めています。建物の名前を社員で決めたことにも、みんなで新しい本社をつくる意味がありました。

木材の使用と省エネを重視
――新本社で、環境への配慮を重視したのはなぜですか。
高橋:
環境にやさしい建物をお客さまへ提案するなら、まず当社が実際につくらなければ説得力がありません。建設会社がこの課題から逃げてはいけないとも考えました。
新本社は、木の使い方や省エネ設備を実際に見てもらえる見本でもあります。できることを一つずつ形にし、次の仕事へつなげたいと思っています。建物を使う時だけでなく、建物の材料をつくる時に出る二酸化炭素(CO2)も意識しました。


――「ZEB Ready(ゼブレディ)」とは、どのような建物ですか。
高橋:
ZEB(ゼブ)は、冷暖房や照明などで使うエネルギーをできるだけ減らし、太陽光発電などでつくる電気も合わせて、1年間に使うエネルギーの量をゼロに近づける考え方です。建物が使うエネルギーを減らすことで、地球温暖化の要因となる温室効果ガスのCO2削減に貢献する建物を増やすのがZEBの目的です。
ZEB Readyは、まず省エネの工夫によって、標準的な建物より使うエネルギーを50%以上減らした建物です。Perches KANDAは、設計時の計算で56%減らしています。LED照明、効率の良い空調、熱を通しにくい窓や外壁、照明を無線で細かく調整する仕組みなどを組み合わせました。建物の省エネ性能を示す「成績表」のようなBELS(ベルス)認証でも、レベル6の評価を受けています。

――木材や再生材料は、どのように使っていますか。
高橋:
外装やバルコニーなどに、東京の多摩地域で育った木を多く使いました。木は育つ間にCO2を取り込み、建物に使われている間は炭素(CO2のもとになるもの)を中にとどめます。木を適切に使い、切った場所に新しい木を植えて育てる流れができれば、山の手入れや林業を支えることにもつながります。
窓枠などには、原材料の100%にリサイクルアルミを使った「PremiAL R100(プレミアル アール100)」を採用しました。原材料を集めて運び、製造するまでに出るCO2は、アルミ1キログラム当たり2.9キログラムです。新しいアルミだけを使う場合と比べ、約80%少なくなります。
――ほかには、どのような工夫をしましたか。
高橋:
屋上に太陽光パネルを置き、外まわりの照明などに使う電気をつくります。屋上や建物のまわりには緑を設け、雨水を植木への水やりに生かす仕組みも入れました。
大切なのは、一つの特別な機械だけに頼らないことです。照明、空調、窓、材料、緑、水の使い方を重ねることで、建物が使うエネルギーや水の負担を減らしています。使い始めた後も、管理を通じてむだがないかを確かめていきます。
――環境に配慮した建物は、費用も高くなりませんか。
高橋:
省エネ設備や環境に配慮した材料を選ぶと、最初の費用が増えることはあります。そのため、長く使う間の電気代や修理のしやすさまで考える必要があります。東京都の木材利用や、千代田区の低炭素建築物(CO2を出しにくい建物)に関する助成制度も活用しました。
助成金は、社会にとって良い取り組みを後押しする公的な支援です。グリーンローンも含め、費用と環境への効果を組み合わせて考えることが、これからの建設会社には必要です。
環境にやさしい預金が、建物づくりを支える
――今回、グリーンローンを利用した理由を教えてください。
高橋:
グリーンローンは、省エネや太陽光発電など、環境に良い事業に使い道を限ってお金を借りる仕組みです。Perches KANDAは、きらぼし銀行からグリーンローンによるお金の貸し出しを受けました。
CQ BANKで集めた預金の一部は、きらぼし銀行を通じて、環境改善に役立つ事業などに使われます。今回のグリーンローンについては、格付投資情報センター(R&I)という外部の格付会社からも、資金の使い方や管理のルールが国際的な原則や環境省の指針に合っているとの評価を受けています。
グリーンローンと通常のお金の借り入れとでは、返すときの条件が大きく変わるというより、何のためにお金を借り、どう使ったかを外に示せることに意味があります。社員やビルに入る会社(テナント)にも、この建物の環境性能をはっきり伝えられます。
――CQ BANKの預金と、環境を意識した取り組みはどうつながりますか。
高橋:
CQ BANKでは、預かったお金を、決められた基準に合う環境改善の事業などへ貸し出したり、投資したりする仕組みがあります。Perches KANDAへのお金の貸し出しを行ったきらぼし銀行も、そのお金の流れを担う東京きらぼしフィナンシャルグループの一員です。
預金をする人、銀行、建物をつくる会社は、遠く離れて見えても、お金の流れでつながっています。そのつながりを見える形にすることが大切です。
――CQ BANKを使う方へ、伝えたいことはありますか。
高橋:
預金したお金が、どこで何に使われているかは、ふだん見えにくいものです。だからこそ、木材や再生アルミ、省エネ設備など、具体的な使い道を分かりやすく伝えることが大切です。そのお金を使わせていただく当社にも、責任が生まれます。

預金が環境に配慮した建物を支え、その建物が街を良くする。「お金が街をつくる力になる」とは、そういうつながりだと思います。
――次の100年に向けて、どのような街づくりを目指しますか。
高橋:
当社には「共に咲く」という言葉があります。会社だけが大きくなるのではなく、地域、お客さま、働く人と一緒に成長するという考えです。
神田の古い建物が更新の時期を迎える中で、持ち主に寄り添い、歴史や祭りを次へつなぎ、住みやすく働きやすい街をつくります。Perches KANDAを新しい出発点にしながら、建物をつくること、守ること、地域活動を一つにつないでいきます。
――最後に、Perches KANDAの建物を見る時、どこに注目してほしいですか。
高橋:
建物を見る時は、形や高さだけでなく、どんな材料が使われているかにも注目してほしいです。再生アルミや木材のように、選ぶ材料によって、つくる時に出るCO2の量も変わります。
預金したお金が、そうした建物づくりに使われていることも知っていただければと思います。
(聞き手:小槌健太郎)
※写真掲載は、参加者の皆さまから事前にご承諾をいただいております。