お知らせ
2026年10月20日
使用する電気を半分以下に 人と街に開かれたオフィスのつくり方
東京・神田に完成した株式会社久保工の新本社ビル「Perches KANDA(パーチス カンダ)」。木材をふんだんに使い、緑の植栽に包まれたこのビルは、標準的なオフィスビルに比べて、年間の一次エネルギー消費量を50%以上減らし、地域にも開かれています。
CQ BANKのグリーン預金が、グリーンローンとして貸し出され、この環境にやさしいビルの建築資金として使われました。
Perches KANDAの設計、施工、管理、営業、資金調達を担ったプロジェクトの担当者に、電気や水をむだにしない工夫、建てる時のCO2を減らす材料、新しいオフィスでの働きやすさ、そして次の100年への思いを聞きました。

座談会参加者
取締役 建設管理部長 藤原 秀生氏
建設管理部 設計・企画課 課長代理 久保 章憲氏
建設部 課長 星名 大貴氏
営業本部 営業部 課長 川上 宏樹氏
PM事業部 次長 石井 寛人氏
取締役 統轄本部長 滝田 昌己氏
――Perches KANDAのプロジェクトで、どのような役割を担ったか教えてください。
藤原:
建設管理の立場から、設計や施工(せこう)、完成後の使い方までを全体で見ました。新しい本社を、当社の仕事や考え方を伝える建物にする役割です。
久保:
建て主(建物を発注する側)の設計・企画担当として、設計者と話し合い、環境性能や使いやすさを形にしました。
星名:
施工を担当しました。図面に描かれたものを安全に、品質を守って実際の建物にする仕事です。
川上:
企画の初めから参加し、設計条件や事業計画、地域とのつながりを考えました。
石井:
完成後に建物を長く管理する立場から、設備の使いやすさや緑の手入れまで確認しました。
滝田:
本社プロジェクトの取りまとめと、資金面の検討に関わりました。
――Perches KANDAを説明するとしたら、どのようなビルでしょうか。
川上:
ひと言でいえば、働く場所であり、地域の人も立ち寄れる「止まり木」です。「Perches(パーチス)」は、英語で「止まり木」という意味です。
1階の駐車場スペースは町会の活動や神田祭の拠点として使えるよう、設計前から地域の方と話し合いました。ビルの7~9階にある本社には、間仕切りを使って広さを変えられる会議室も設け、さまざまな集まりや催しに使えるようにしています。

――普通のオフィスビルと違う点はどこですか。
川上:
南側のビルの敷地に誰でも通れる広場のような空間があり、当社のビルには各階のバルコニーには植栽(しょくさい)があります。ビルが多い神田で、働く人がふと外を見た時に緑で気分を変えられるようにしました。
建設にあたって費用を考えて減らす案も出ましたが、地域と働く人のために残したかった部分です。Perches KANDAという名前も社員から案を集め、投票で決めました。
使用する電気を半分以下へ
――ビルの性能を表すZEB Ready(ゼブ・レディ)とBELS(ベルス)レベル6とは、どのようなものか説明してください。
久保:
ZEB Readyは、標準的なビルに比べ、空調や照明などに使う年間の一次エネルギーを50%以上減らした建物です。一次エネルギーとは、電気などをつくるための元のエネルギーまでさかのぼって数えたものです。
Perches KANDAの削減率は56%です。BELSは、エネルギー消費性能や断熱(だんねつ)性能などを第三者が評価し、建物の省エネ性能を見える形で示す制度で、最上位に当たるレベル6を取得しました。

――50%以上減らすために、どんな工夫をしましたか。
久保:
見て分かるものは消費電力が少なく長寿命で省エネ性能が高いLED照明を採用したことです。見えにくいところでは、高効率の空調機、照明を無線で細かく調整する仕組み、窓ぎわの熱を通しにくくする外装の工夫があります。
明るすぎる照明や、必要のない空調を減らしながら、仕事に必要な明るさと温度を保つ設計にしました。
――実際に働いてみて、省エネと快適さは両立していますか。
石井:
両立していると感じます。ただし、省エネ設備は入れただけでは十分ではありません。季節や人数、部屋の使い方に合わせて、照明や空調の設定を見直すことが大切です。
建物を管理する側がデータを見て、使う人の声も聞きながら調整を続けます。完成後も改善することで、快適さと省エネを保てます。

――環境に配慮した取り組みは、どのようなものがありますか。
石井:
雨水はためて、植栽への水やりに再利用します。水道水だけに頼らないための仕組みです。屋上の太陽光パネルでつくった電気は、植栽に水をあげる装置(かん水装置)や建物の外まわりの照明などに活用します。
川上:
水や電気をむだにしない工夫です。ただし、太陽光の電気が水やり用ポンプだけに直接使われているわけではありません。建物全体の電気の一部として使われています。

東京・多摩の木材を多く使う
――国産木材を多く使った理由は何ですか。
藤原:
当社は100年前に、神社や寺院の新しい建物を作ったり、古い建物を直したりする宮大工(みやだいく)として神田で創業しました。その歴史を今の建物に表すため、外装やエントランス、天井、テラス、バルコニーに東京・多摩地域で育った「多摩産材」などの国産木材を使いました。
木は育つ時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を取り込みます。建物に木材を使い、森で木を育てる循環を支えることはCO2削減にも貢献し、環境を守ることにもつながります。鉄筋コンクリートの建物と比べて、木の色や香り、手ざわりも感じてほしいです。
――木や緑は、働く人や街に何をもたらしますか。
星名:
木は同じ形や色ばかりではありません。その小さな違いを生かしながら、図面通りにきれいに仕上げるところに、施工の難しさと面白さがありました。
植栽は低い階から高い階へ、湿った場所を好む種類から乾いた場所を好む種類へと変わる考え方で、約100種類あります。季節ごとの変化も楽しめます。
――建てる時のCO2を減らす建材も使ったそうですね。
星名:
窓枠などには、LIXIL(リクシル)という会社の循環型低炭素アルミ「PremiALR100(プレミアル アール100)」を使いました。原材料にリサイクルアルミを100%使った製品です。
新しい地金(じがね)だけでつくるアルミ部材と比べ、原材料の調達から輸送、製造までのCO2排出量を約80%減らせます。

――「建てた後の電気」だけでなく、「建てる時のCO2」も減らすということですか。
藤原:
その通りです。建物が使われている間の省エネとは別に、材料をつくり、運び、建てる時にもCO2が出ます。これを「エンボディドカーボン」と呼びます。
難しい言葉ですが、「建物ができるまでに出るCO2」と考えると分かりやすいです。使う時と、つくる時の両方を見ることが大切です。
――社員の声は、建物や働き方にどう反映されましたか。
川上:
各部門から人を集め、約10人の本社プロジェクトチームで検討しました。設計はコンペ(提案を比べて選ぶ方法)で株式会社JR東日本建築設計にお願いすることに決め、当社側からZEB Readyや地域利用などの条件を最初に伝えました。

藤原:
移転に合わせて、紙を減らすペーパーレスや、社員の席を固定しないフリーアドレスという仕組みを採り入れました。電話も固定電話機から1人1台のスマートフォンを持つようにしました。
移転前は4フロアに分かれていた部署が2フロアに集まったことで、違う部門同士でも話しやすくなりました。慣れるまでは苦労もありましたが、働き方は大きく変わりました。
――このビルで、特に好きな場所はどこですか。
久保:
私は建物の中にある階段(内階段)です。全面ガラスに近い明るい空間で、上の階から1階まで歩いて下りると、階ごとに少しずつ表情が変わります。エレベーターだけで移動するより、建物を感じられます。
星名:
私は各階の案内表示(サイン)が好きです。階ごとに違う絵ですが、上から下までつなげると1階の大きな絵につながる仕掛けになっています。思わず歩いて見たくなる場所です。
人と街の次の百年をつくる
――神田の街中で建てるうえで、難しかったことは何ですか。
滝田:
省エネ、木のデザイン、働きやすさを守りながら、事業として成り立つ金額にする必要がありました。社員の意見を聞きながら、何を減らし、何を残すかを繰り返し話し合いました。。
星名:
前面の道路は約11メートルで、大型クレーンを使う時は通行止めが必要でした。近隣の方への説明を重ね、協力を得ながら進めました。騒音や振動を抑える重機を使い、ほこりには散水で対応しました。
施工ではBIM(ビム)という建物の立体データも使い、図面だけでは見えにくい配管や照明、木の天井と設備の組み合わせ方を関係者で確かめました。
――この建物は、神田の街でどんな場所になってほしいですか。
川上:
オフィスだから関係者しか入れない場所ではなく、町会の行事や神田祭などで地域の方に使っていただきたいです。9階のスペースも、仕事の邪魔にならない範囲で会合や催しに活用できます。
ふらっと立ち寄り、人が集まる。名前の通りの止まり木に育てたいです。
――この建物づくりに、久保工らしさが最も表れているのはどこですか。
藤原:
宮大工の歴史を木のデザインで伝えながら、今の課題である省エネや資源循環にも向き合ったところです。当社は企画・設計、施工、完成後の管理まで建物と長く付き合います。その仕事を一つの建物で見せられたと思います。
星名:
施工では、つくる側の都合だけで決めないことです。決められた条件の中でも、実際に使う人の立場で、動きやすいか、手入れしやすいか、長く使えるかを考えました。
最後に残るのは建物なので、見え方や使いやすさまで含めた、一つひとつの仕上がりを大切にしました。
――グリーンローンを使った意味を教えてください。
滝田:
当初は通常の銀行からの借り入れを考えていましたが、きらぼし銀行がグリーンローンを提案してくれました。グリーンローンは、省エネなど環境に配慮した事業に使い道をしぼった借り入れです。
環境の条件を満たして資金を調達できたことで、建物づくりを支えるだけでなく、当社の環境への姿勢も示せました。
預金したお金が金融の仕組みを通じて、こうした建物につながる。その道筋が見えることにも意味があります。
――子どもたちや次の世代に、未来の建物づくりについて伝えたいことはありますか。
藤原:
建物は、一人だけではつくれません。設計する人、工事する人、管理する人、使う人、地域の人、お金の面で支える人の思いが重なって、街の一部になります。
当社は2027年に創業100年を迎えますが、100年は通過点です。この建物を次の100年に向けた出発点にしたいです。
石井:
環境に良い建物も、使い方や手入れが悪ければ力を発揮できません。電気や水の使われ方を確かめ、緑や木を手入れし、直すべきところを直す。
建てた後も大切に使い続けることまでが、未来の建物づくりだと思います。
※写真掲載は、参加者の皆さまから事前にご承諾をいただいております。