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2026年5月28日

ゲームで社会を変えるには?元バンダイナムコ・コヤ所長に聞く「ヒット作の生み出し方」

バンダイナムコで「アイドルマスター」や「マリオカートアーケードグランプリ」、「釣りスピリッツ」など数々のヒット作を世に送り出してきた「コヤ所長」こと小山順一朗さん。
人々のニーズを紐解き、科学的にヒットを生み出す手法を研究してきた彼は、「ゲームクリエイションの力は社会を変える可能性を秘めている」(!)と語ります。
今回は、そんな小山さんに「ゲームの力で地球環境を守る方法」について教えていただきました!

小山順一朗(こやま・じゅんいちろう)
ナムコ(現:バンダイナムコグループ)入社後、『アイドルマスター』、『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE』、『マリオカートアーケードグランプリ』、『機動戦士ガンダム戦場の絆』、『新太鼓の達人』、『釣りスピリッツ』など100種類以上ゲームタイトルを開発。VRアクティビティ27種を開発し、多くのVRでの知見を得る。現在は日本工学院専門学校にて教育革新プロジェクト「Vision Craft」のエグゼクティブプロデューサーを務める。

「ヒット作を作る極意」が地球を救う?

ーー数々のヒット作を生み出してきた小山さんですが、ゲームの力で社会を変える、とはどういうことでしょうか?
小山さん:
ゲームそのものというより、ゲームを作る過程での「ヒット作を作る極意」が地球を救う可能性があると思うんです!
そもそも「ヒットしないゲーム」がなぜヒットしなかったのか、考えたことはありますか?

考えたこともなかったです…。

小山さん:
それは、「多くの人が欲しがる、かつ珍しい商品」を提供することができなかったからなんです。
ゲームファンが大ヒットと記憶する作品のほとんどは「多くの人が欲しがる、かつ珍しい」という共通条件を満たしています。
同時に大ヒットしたゲームは、ジャンルの代名詞でもあります。格闘ゲームと言えばストリートファイター、ホラーゲームと言えばバイオハザード、狩りゲームと言えばモンスターハンター、RPGと言えばドラゴンクエスト、音楽ゲームと言えば太鼓の達人、アイドルプロデュースと言えばアイドルマスターのように、です。
ジャンルの開祖であるこれらヒット作品を超えるのは並大抵のことではありません。しかし、開祖が新たなジャンルを切り拓くやいなや、我も続けとばかりに似た作品群が各社から続々と出てきて一大ジャンルが築かれるのも事実です。
それら作品群を一言で表すと「多くの人が欲しがるありふれたテーマの作品」となります。 各社工夫を凝らして本家との差別化を図るものの、本家の人気にあやかった後発作品となりますから、その差別化点に気付きなおかつその差別化点が気に入った一部の消費者だけが利用します。つまり、そのジャンルの代名詞である本家を超えるヒットはありません。

ーーでは、もっともヒットしない条件は何でしょうか?
小山さん:
もうお分かりですよね。最もヒットしない条件は「多くの人が欲しがらない、かつありふれている」となります。
つまり、ありふれたテーマであるにも関わらず出来栄えも良くない作品という訳です。そのような作品を欲しがる人はどのくらいいるのでしょうか?
大好きなゲームに似た体験が得られるのかと期待して買ったのに、いまひとつ楽しめなかった。大好きなゲームで遊んだ時に感じた爽快感や感動と比較したら足元にも及ばなかった。このようなことは、みなさんも経験があるのではないでしょうか?
かつてパズドラが大ヒットしたのち、パズドラもどきのゲームが雨後の筍のようにストアに沸いてきましたが今ではもうほとんど残っておりません。
消費者は、「劣化コピー」とか「クソゲー」と言った言葉で評価するので、トライアルも発生しなくなり、ますます負のスパイラルに陥っていきます。

「遊び」は人間の本能。だから、「結果的に環境に良いこと」が生み出せる

ーーとはいえ、「珍しくて」「多くの人々が共感するもの」を作るのは難しそうですね…。

小山さん:

そりゃ難しいですよ!「珍しい=まだ誰も見たことがない」「共感される=みんなが欲しがる」という相反したものを作らなきゃいけないから。 でも、これは「ニーズを作り出す」ことで実現できるんですよ!

ーー「ニーズを作り出す」?

小山さん:
人の欲求は心の奥にしまわれています。欲求にはさまざまありますが、まだ満たされていないものってありそうですよね。それを「未充足ニーズ」と呼んでいます。
このまだ満たされていないニーズ「未充足ニーズ」には、その人自身が認識できているものと認識できないものがあるんです。自分で認識できている「顕在ニーズ」と、自分の中にあるんだけれどその存在を自分で認識できていない「潜在ニーズ」です。
顕在でも潜在でもいいのですが、その「未充足ニーズ」が強いとき、それはその人の何らかの行動に現れてきます。分かりやすい行動ではないかもしれないけれど、行動に現れていればそれは強いニーズに基づくものなんです。
ゲームや商品を作るとき、私は、ターゲットとなる人の日常生活における行動をじっくり観察し、その行動を起こすに至った問題を推察するんです。そうやってその人の満たされていない問題を捉えます。
ターゲットが頭で考えているだけの問題ではだめです。人間は理屈で考えてもっともらしくニーズだと思うことがあるけれど、それに惑わされてはダメです。行動に現れてこないものは強いニーズではないのです。
さて、行動にまつわる問題を見つけたら、それを取り除くことを考えます。それを取り除けるということはわがままな欲求が叶うということなので、「わがままニーズ」と呼んでいます。
行動を観察し、問題を推察し、それを取り除くことを考えれば、その人の欲求を満たせていますよね。これが、わがままニーズを作り出すということです。
簡単そうに聞こえるかもしれませんが、難しいですよ。商品開発のプロセスの中で、ワークショップを行い仮説を立てたり、ターゲットを集めてヒアリングしたりして仮説検証するなど磨いていく工程が必要です。何が生まれるかはやってみないと分かりません。

ーーなるほど。人間の「わがまま」な部分にこそ、本当のニーズが隠れているんですね。

小山さん:
人は「簡単で便利」なことが大好きです。環境課題においても、「楽しく続けていたら、環境に良い結果になっていた」という状況が理想ですね。
たとえば、スマホゲームのヒット作「Pokémon GO」は、リアルで町中を歩くことでポケモンをゲットできるというものです。多くの人がゲームにハマり、毎日歩き回っていました。
「たくさん歩こう!」と思って始めたわけではないけれど、楽しくゲームを続けていたら、結果的に健康になっていた。そんな現象を起こすことが大事なんです。
つまり、ヒット作を作る極意は「わがままニーズを掘り起こし、それを楽しくクリアし続ける状態を生み出す」。これを環境問題に応用したら、結果的に人々が環境に良い行動を続けられるような状況を生み出せるんじゃないかな。

小山さんがひらめいたアイデアやヒントを書き綴ってきた仕事手帳

ーー遊ぶことが環境保全に繋がったら、まさに理想的ですね。

小山さん:
そもそも、人と「遊び」は切っても切り離せないものなんですよ。オランダの歴史家であるヨハン・ホイジンガは、著書『ホモ・ルーデンス』(1938年)で、「人間の本性は遊ぶことにある」と述べています。
人間もそれ以外の動物も、遊ぶことによって集団の中での社会性を身に付けたり、外敵から身を守る訓練をしてきました。だから、遊びを研究することは人々を楽しい気持ちにすることだけでなく、社会や環境を良くすることにも繋がると信じています。

コヤ所長の奥義を学べる「Vision Craft」が始動。創造性を加速させ、課題を解決するプロダクトを社会へ

ーーここまでのお話を聞いて、小山さんは「どうしたらより多くの人に面白がってもらえるものを作れるか」を徹底的に考えてきた方なのだと、改めて伝わってきました。 でも、小山さんのようにヒット作を生み出すのは、一部の天才にしかできないのでは…?

小山さん:
それは違います!「ヒット」は天才だけのものじゃないんです。私自身、最初からヒットするようなものを作れたわけじゃない。
バンダイナムコ時代は「クソゲー」と呼ばれるような、作ってもお客さんが喜ばないものをたくさん作っています(笑)。だからこそ、科学的にヒット作を開発するための手法を学び、研究してきました。

ーー小山さんにもそんな時代があったんですね。

小山さん:
今は、そんな私が研究してきた「創造の奥義」をより多くの人に伝えるために、日本工学院でヒットプロダクツ創造計画「Vision Craft(ビジョンクラフト)」をスタートしています。
このプロジェクトは、「ヒットプロダクトを生み出す考え方を身に付け、それを形にできる人材の育成」と「学生の力を引き出し、カレッジを超えた新しい可能性を見出す環境の創造」の2つを目標に掲げています。
学内から集まった約70名の学生たちにヒット作を生み出す方法を徹底的に教えているんです。

ーーヒット作を生み出すノウハウを学ぶことができるんですか…!

小山さん:
実践重視のカリキュラムで、生徒たちには実際にヒットするプロジェクトを作ってもらっています。
すでに6つのプロジェクトが立ち上がり、実現に向けて動いているんですよ。日本工学院の展示会で発表しました。

⽇本⼯学院卒業展で「Vision Craft」の成果を公開www.neec.ac.jp

ここで生まれるものはとても魅力的で、人々の生活をより豊かにしたり、社会の課題を解決できたりするものです。
しかも、ヒット作を生み出すノウハウを使って、ヒットする可能性を極限まで高めることができる。そう考えるとそれほどリスクを考えずに、挑戦ができます。

ーーこれからどんなプロジェクトがリリースされるのか、とても楽しみです。

小山さん:
私は娯楽の三大要素は「見る・やる・作る」だと思っています。見るよりもやる、やるよりも作るほうが能動性が上がり、人はより大きい達成感を感じられる。
今はSNSの普及や技術の進歩で、自分で絵を書いたり動画を撮ったり、モノづくりをするなど「作る」ハードルがとても下がっている時代です。最近では、そこにAI技術も加わって、創造はさらに加速しています。
私が教えているような素晴らしい創造性を持った人々が、「結果的に社会に良いこと」を生み出せる環境づくりに励んでいきたいです。

(取材・執筆=目次ほたる(@kosyo0821)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/(撮影=深谷亮介(@nrmshr))

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